やるからにはいいものを作りたい、自分も納得のいくものにしたいというのは、耶雲ならずともあらゆるジャンルの作り手たちに共通する思いだろう。しかし、その思いを具体化するためには、チーム=”組”の運営が重要となる。
耶雲:今やCMも映画も機材やスタッフに違いはなくて、みんなでいいものを作るということでは変わらないですよね。でも“組”っていうことでは仕事の進め方も雰囲気も毎回やっぱり違います。
僕はそこを外人部隊のように渡り歩いているわけですが、それぞれのいいところを輸入して持ち運んでいる気はします。どんなジャンルの組においても共通して大事なのは、コミュニケーション能力。そこにおいては言葉も大事ですが、何より明確な画があることも大事だと思っています。そのためにドラマに(CM業界で一般的な)画コンテを持ち込んだり、映画にビデオコンテを持ち込んだり。そのほうが結果として現場のスピードアップもできるし、みんなが納得して進めていくことができて、間違いも少なくなる。だからいつも僕は荷物が多いといわれているんですけど(笑)。
演出家として自分がやりたいことは、こういうことなんだと相手に伝える能力。そのスキル自体も、さまざまな組を経験することで上がってきている気はします
3本の映画含め、スタッフや環境は毎回変わり、都度、一から築かれていく耶雲組。そうした意味では耶雲組にはルールはないが、常に明確なゴールがある。
耶雲:映画の現場に関しては、監督としてのキャリアがない分、皆さんに委ねる部分もあるんですが、その中で何をもってこの仕事を勝ちとするかっていう勝利設定はいつも最初にはっきりさせています。そうしないと現場も作品もぼんやりしてしまう。勝利設定というゴールがあれば、いざというときも「じゃあこうすればいい」という別案がパッと出てくる。
もうひとつ言うと、その勝利設定は、自分の能力やできる範囲よりもちょっと高めに設定するんです。『暗黒女子』で勝利設定にしたのは、ホラーにも見えてしまう中で“人をしっかり描くこと”。ミステリ要素もあるので伏線も張り、且つ裏切る。そういう意味ではハードルが高かったです。あと、暗闇が多いので、音響にもこだわりました。女子高生たちのお話ではありますが、リアルな現代の女子高生として演じると浮いてしまうので、昔の日本映画の女優さんたちのしゃべり方を参考にしてもらって。そこでも具体例は示すようにしましたね。
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