そもそもなぜ齊藤はそこまで音楽というものにこだわるのか。
人は音ありきで画に目を向けるものだからという持論あってのものだが、「もともと映像に興味なかった人間で、音楽ばっかりやってきたので、映像制作においても何をすべきなのかあまりよく分からないところもあったのかもしれないですね(笑)」と齊藤。
そう、もともと齊藤は映像志望ではなく、ミュージシャン志望。では、その夢をあきらめて業界を目指したのかと言えば逆で、ROBOTに入社したのもミュージシャンになる夢を叶えるためだったのだとか!?
齊藤:大学時代に組んだバンドを卒業後もずっとやり続けていこうと思っていたんですよ。ただ、やっぱり働かないと続けていけない。当時だとレンタルビデオ店やライブハウスでアルバイトしながらバンドもやる人が多かったんですが、そういうのはなんかイヤで、きちんと就職はするべきだろうと思っていたんです。そんなときに、あるCMディレクターが大学に講師に来て、学生時代に組んだバンドを未だに続けているという話をたまたまされていたんです。それでCM業界だったらバンドを続けられるなと(笑)。
その中で出会ったのが、ROBOT。
齊藤:面接のときに「ROBOTに入って何がやりたいんですか?」と訊かれて、「バンドをやりたいです」と(笑)。「CMの仕事ももちろんやりますが、バンドが売れたら辞めます」なんて言っていたんです。逆にそんなところを面白がってもらえたのかもしれないですね。ただ、本当にバンドが自分の中心だったので、企画演出部に配属されて先輩から「現場を見に来い」と言われても、特に演出家志望でもなかったので断っていて(笑)。でも会社に入って3年目くらいで逆にバンドの方を辞めて、その頃からですかね、真面目に演出の道でごはんを食べて行こうと思い始めたのは。それまではずっと腰掛けのつもりだったので(笑)。
冗談半分にも聞こえる話ながら、冗談半分だけにあと半分は本心。それでも許されていたのは、齊藤の揺るぎなさにまわりを納得させるだけのものがあったからこそだろう。常にいろんなところに興味が向いていて、それが齊藤のエッセンスにもなっている。音楽にしても、ロックから実験音楽までたどり「今はこれしか聴いていない」と言い切るのがアイドル音楽。ももクロに始まりでんぱ組.incから地下に潜り、今最もはまっているのはアップアップガールズ(仮)。イベントや握手会にも足しげく通っているのだとか。そのアンテナとセンスとバイタリティー。趣味として楽しみつつ、「アイドルの面白さは多様性。今の秋葉原はパンクムーブメントの頃のロンドンと似ている(その頃のロンドンは行った事ないけど)」と一家言あるのも齊藤だ。良くも悪くも、齊藤自身がCM音楽の話さながらに、ルールを破って固定概念を打ち崩す存在。ただ、そこに関しても、ルールを破って固定概念を打ち崩せるだけの実力があればこそということにもなる。
齊藤:バンドも辞めて、この業界でやっていく覚悟もできて、一からCM制作に関しても勉強し直したんです。自分自身のディレクターの仕事をしながら、ROBOTの先輩・守本亨のアシスタントをやらせてもらって。そこでCMディレクターってこういう仕事なんだと初めてちゃんと分かったんですよ。それまではずっとエア・ディレクターというか、想像でやっていたところがあって(笑)。だから態度も悪かったんでしょうね、今も良いとはいえませんが (笑)。