植物化の実現には、現場で本物の植物を植える作業と、さらにVFXで植物を足す作業を要した。現場での緑化をサポートしたのは、愛知県に本社を持つエスペックミック株式会社。植物に関する生産事業や都市の緑化など自然環境作りなどを請け負っている企業だが、本作のようなエンタメ作品に携わるのは初めてのこと。造園部の西田敏行を中心にしたチームが、草だけを育てた1㎡ほどのシートを多数用意。このシートを絨毯のようにつなげて敷いたり、使いやすいサイズに切り貼りすることが可能になった。シートは繊維質で、土がないため持ち運ぶ際も軽い。保水仕様になっており、植物がすぐに枯れることもなかった。
「西田さんがそのシートを扱う造園業者さんを愛知で見つけてきてくれて、その業者さんと一緒に植物化に取り組んでくれました。「くろっけぇ」を行った空中庭園の造園も西田さんのチームが行ってくれています。汚し作業も含め、徹底的に情熱を持ってやってくださいました。このチームなくしてはできなかったことですね」(斎藤)
郊外に行くほど植物が生い茂る様子は、VFXチームに託された。VFXスーパーバイザーの土井淳は、S2制作にあたって40点ほどのイメージボードを作成。アリスやウサギが目にする異様な風景の数々を絵にしていった。桜新町、二子玉川、中野、荻窪、吉祥寺…。なじみのある東京の街が植物に侵略されている様子がわかるよう、ロケハンをした後にイメージボードを作り、佐藤監督に細かく確認してもらった。
「監督は『街が山に埋もれていく感じにしたい』とずっと言っていましたね。最初は、土地が隆起して山になったのではなく、山に土砂崩れが起こって、街が埋もれたというイメージだったんですが、土砂崩れの描写はせず、『23区外は山になっている』ということになりました。中野あたりでは奥に新宿のビル群が見えるようにビルを足したり。場所によってビルの見え方も変わってくるので、そのあたりもしっかりチェックしています。佐藤監督も美術の斎藤さんもリアリティを求める方なので、『ここから木が生えるのはおかしい』という議論を何度も交わしました。S2のVFXで一番大変だったのがこの植物化でしたが、架空の街ではなく自分が知っている街を変えていくのは、考えるのも作るのも楽しかったです」(土井)
S1ではリアルな黒ヒョウをCGで制作したVFXチーム。S2では、迫力ある2頭の象を制作している。
「前回は黒ヒョウを見に動物園に行きましたが、動物園の動物ってあまり動かないんですよね…。今回は野生の象の動画をネットで探して参考にしました。最初、監督が描いた絵コンテに合わせて象を作ったら、6mぐらいになってしまって(笑)。実際の象は3mぐらいなので、間を取って4.5mぐらいに。神々しく見える処理を加えています」(土井)
佐藤監督も「いい感じになっています」と太鼓判を押した象にも、ぜひ注目してほしい。